経営工学が対象とするデザインやマネジメントには,私たち「人間」への配慮が欠かせません.多様な人びとの社会生活やニーズを理解し,システムやサービスを提供する人とそれらを使う人との適切な関係を実現する「人間を中心としたデザイン思考」が必要です.
日本社会は少子高齢化を迎え,大量生産・消費とは異なる価値観に立った,多様性に配慮した新しいシステム・サービス・製品のデザインが求められています.そのような社会的な要請に応えるため,人間工学研究室では,UX/UIデザイン,消費者行動と顧客ロイヤルティ,ユーザビリティを高めるインタフェイスデザイン,システム・製品・生産システムの人間中心設計などを主な対象に,企業や他大学と連携した研究を行っています.
ユーザエクスペリエンス(UX)デザインの実践により,価値ある体験をユーザに提供し,持続可能でインクルーシブな共生社会の実現を目指した研究を行っています.その研究において,ユーザとシステム・製品とがより良い関係を構築できるような人間中心視点でのユーザインタフェイス(UI)デザインに取り組んでいます.
具体的には,外食店舗やスポーツイベントの体験価値向上,障がいを持たれる方の生活を支援するシステムデザイン,高齢者介護へのコミュニケーションロボット活用に関する研究などを実施しています.また顧客の潜在的ニーズを明らかにして,製品やサービスを利用することで,顧客がより良い体験をできるようなカスタマーエクスペリエンス(CX)マネジメントに関する研究にも取り組んでいます.
価値ある体験をユーザに提供するために,デザインだけでなく,消費者行動と顧客ロイヤルティに関する研究を行っています.
感動を生み共感を創りだすサービスやシステムをデザインするには,ユーザである消費者の理解が欠かせません.観光サービスやフードサービスを対象に,顧客である消費者の態度,考えや行動を,データサイエンスや統計学の手法を活用して明らかにする研究に取り組んでいます.
さらに,消費者の潜在的ニーズの理解から,サービスを提供する人とそれらを利用する人とがより良い関係を築けるような「顧客エンゲージメント」,サービスを利用することで感動や共感を創りだす「顧客ロイヤリティ」までを研究対象としています.また現在,神奈川大学産官学民連携プロジェクト「観光プラットフォーム」,および,アジア研究センター共同研究プロジェクト「アジア地域の多様な消費者へ信頼と安心の食品を提供するサプライチェーンと6次産業ビジネスモデルに関する研究」に取り組んでいます.
ユーザビリティは,色々なものに関係しています.日々の生活を行う上で欠かせない生活用品,交通機関,通信機器などあらゆるものに関わっています.日々の生活水準を向上させるものづくりを行うためには,ユーザビリティを考えることは非常に重要なことであると言えます.当研究室では,4つの分野に関するユーザビリティを研究しています.
1つめは,Webサイトにおける広告の効果についての研究です.近年,インターネットの普及に伴って,広告媒体は雑誌や新聞から,Webサイトに移行しています.効果的な広告とはどのようなものであるか,多様な広告形態について視線計測や心的印象評価アンケートを用いて検討しています.
2つめは,1つめに関連した研究で,特に眼の瞳孔面積変化を用いた研究です.人の興味は瞳孔面積の変化で推定可能であると言われています.実際に好みの人物を見るときは瞳孔面積の拡大がみられます.そこで,商品でも同様の効果があるかどうか検討し,ネットショッピングのサイト上での購買意欲が高くなる商品提示等について検討をしています.
3つめは,自動車運転時の安全性向上のための研究です.自動車運転時には,さまざまな状況に応じた安全確認が必要ですが,複雑な状況になるほど危険物の確認が難しくなってきます.人がどのように安全運転を行っているのか視線計測を行い,見落としやすい交通状況などを調査することで,安全運転をサポートするシステムの設計を行っています.
4つめは,動画コンテンツに関する安全性の検討です.近年,インターネット上でさまざまな個人作成動画がアップロードされています.これらの映像の中には,輝度変化の激しく視聴者に負荷がかかるものがあります.これらの映像を視聴中の脳波や視線を計測して,高負荷の映像を検出するシステムの研究を行っております.
健康や労働安全の視点からの負担軽減と,経営や効率の視点からの生産性向上とを両立させるヒューマンファクタに配慮したシステム・製品・生産プロセスの人間中心設計に取り組んでいます.研究対象も,伝統的な工業だけでなく,サービス産業に広がっています.
例えば,筋電図などの生体情報を利用した工業製品の人間工学的デザイン,製造業やサービス業での作業プロセスや職場環境の人間工学的評価と改善に関した研究を行っています.客観的データにもとづく理論的アプローチにより,健康や労働安全を実現する製品設計やシステム改善に取り組んでいます.